桃姐/A Simple Life
STORY
梁家に13歳のころから60年仕える使用人、桃姐(葉徳嫻/デニー・イップ)はある日脳卒中で倒れる。自ら老人養護施設で余生を過ごす事を決めた桃姐。その事がきっかけで子供の頃から世話してもらっていた、梁家の息子ロジャー(劉徳華/アンディ・ラウ)は桃姐のいる施設を訪ね始める。
REVIEW
沖縄国際映画祭にて鑑賞。まっ覚悟はしてたんだけど、やっぱガラガラだったよー(涙)
この『桃姐』は沖縄在住のツイ友さんと合流して鑑賞しますた。
この映画のプロデューサーの実話を元に出来上がった作品で、今年の第31回香港電影金像奨で作品賞、監督賞、主演男優、主演女優賞と輝いた。
また昨年の第68回ベネチア国際映画祭、最優秀女優賞、台湾の第48回金馬奨、最優秀男優・女優・監督賞、今年の第4回沖縄国際映画祭、最高賞のゴールデンシーサー賞と作品賞である海人賞にも輝いている。
桃姉を演じたデニー・イップはノーメイクで体当たりの好演。この映画で11年ぶりに女優復帰したのだが、さすが。見事に桃姐という役が合う。ほんとにすばらしい女優さんだ。
ロジャー役のアンディもホント、歳を重ねるにつれいい役者さんになったなぁと思えるくらいの好演。
物語は雇い主である梁家に4代に渡り住み込みで働く使用人、桃姐と梁家の息子、ロジャーの交流が描かれている。
使用人の桃姐が脳卒中で倒れロジャーが彼女の最期までを看取るまでの話
子供の頃から当然のように自分の世話をしてくれた桃姐が老人養護施設へ入る。半ば義務感のように彼女のいる施設に通うにつれ、ロジャーにとってとても大切な存在だった事に気づき、心の変化が訪れる。
最初から最期まで大きな起伏のある展開も無く、桃姐とロジャーの日常は実にどこにでもあるような日々の連続だ。それが淡々と進行する。
劇中、施設で過ごす日々が大半を締め施設の場面は現実的で閉塞感も漂う。その雰囲気に押しつぶされそうになる。だが、とても地味な映画なのになぜ心が打たれるような感情がわくのだろうとさえ思う。
丁寧な脚本、デニー・イップ、アンディ・ラウの細やかで静かな演技、何より桃姐という人物が魅力的に映る。
ロジャーと桃姐の関係はあくまで雇い主と使用人の関係に過ぎない。でも、時には母のように、友人のように、姉のように接する桃姐の距離感が良い。
桃姐とロジャーの会話の中に、その日常に、その生き方に彼女の生きてきた姿が映し出されているようだ。
そして、物語の中のちょっとした会話のエッセンスが良い。歳を重ねたものしか発せないユーモアや頑固な部分、思慮深さ、物語が進むにつれ桃姐という人物像に好感が湧く。
使用人として人生の大半を歩んだ彼女の姿は世間的に見て孤独な老人に映る。
施設に移ったあとは特に、その孤独さが増すように見える。
なのに彼女は強く、たくましい。
誠実にそれを良しとして生きる姿。
ロジャーの母が小遣いを渡そうとして頑に拒む頑固さ。
ロジャーの子供の頃の写真や思い出の品を密かに宝物にしている姿。
施設の男性老人の嘘を知りながらお金を与える場面。
多くを望まず、少しの蓄えで生きていく。
その潔さっていうのかな、”あるがまま”の姿勢に心を打たれる。
題名の『A Simple Life』ほんと、そのままの意味。
淡々と進む物語、ロジャーと桃姐の過ごしていく日々がとても大切な日々を歩んでるように映る。やがて消え行く桃姐に途中から涙をこらえるのに必死になったよ。
映画祭というのに、この映画の会場は人が少なかった。こんな良い作品を見なかった人は損だと感じた。
東京で上映したら間違いなくチケット争奪戦だったと思う。
個人的に沖縄で上映してくれた事は嬉しいけど、本音をいうともっと多くの人に観てほしいと思った。
秋には公開が決まった映画なので、本当にたくさんの人に観てほしい。それほどの良作。
個人的には、今まで観た映画の中でも上位になるくらいの映画ですた。
監督:アン・ホイ(許鞍華)