HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

映画ときどき猫。音楽、パソコン、趣味

キープ・クール/有話好好説

STORY

露天商のシャオ(チアン・ウェン)は、元恋人のアンホン(チュイ・イン)が忘れられずストーカーまがいの行動を繰り返していた。そしてとうとう、アンホンの今の恋人・劉(リウ・シンイー)とその仲間たちに袋だたきにされてしまう。その時、シャオはたまたま側にいた通行人チャン(リー・パオティェン)の鞄で応戦し、その中に入っていたパソコンを壊してしまうのだった。怒ったチャンはシャオに弁償を迫るが、シャオは劉の責任だと相手にしない。後日、弁償するという劉に会うため彼の経営するレストランに向かったシャオとチャンだったが、弁償してもらえればそれで満足なチャンに対し、シャオは劉への復讐しか頭になかった…。

REVIEW

チャン・イーモウ監督といえば、先ほど公開された「王妃の紋章」や「HERO-英雄-」のような豪華な時代劇や「あの子を探して」や「初恋の来た道」のように中国の美しい風景を心温かく静かに描いた作品を連想しがちだけど、この作品は本当にチャン・イーモウの作品なのか??と思わせるくらいの異色作。

舞台は中国の美しい片田舎でもなければ、絢爛豪華な時代劇でもない。近代化の波に乗り活気にあふれた現代の中国の都会を映し出している。

そして、タイトル「キープ・クール」つまりは、「まぁ落ち着いてみようよ」って言いたくなるくらい、テンポのあるドタバタ劇。

終始ハンディカメラで撮影したため、かなり酔いが回るほど荒っぽい。でも、そのブレが物語の臨場感を表現していて、時には緊張も走る。

チアン・ウェン演じる露天商の男は、いい歳なのにフラれた女のケツを追い回すチンピラ風情のような男。そんな男が女の新しい男にボコボコにされ復讐しようとするドタバタを描いただけだが、これがかなり面白い。

現代人特有の病的なキレやすさや狡賢い姿をブラック・ユーモア溢れる表現で見せつけてくれる。

物語は主人公、露天商の男シャンが女を追いかけまわし、その女の新しい男・劉にボコボコにされ、その現場に偶然居合わせた初老の男チャンのパソコンを壊した所から俄然面白さを発揮する。

チャンのパソコンを壊してしまったシャンは知らん振りをしようとするが、どうしても取り戻したいチャンは劉と三者で話を着けようと提案。レストランへと向かう。

ボコボコにされたことを根に持つシャンは復讐の時を伺っている。パソコンが戻ればそれで良しとするチャンはどうにかシャンに復讐を止めさせるのに必死になる。この事がなければ、出会うことのなかった違う生きかたの男二人の攻防がかなり面白い。

主人公シャンを演じたチアン・ウェンのキャラクターも良かったけど、もう一人の主人公と言っていいほど、リー・バオティエンが演じたチャンが抜群に面白かった。

初老の男チャンは狡賢い所もあるけど、真面目に生きてきた男。現代的な若者であるシャンと出遭った為に事態は思わぬ方向へ発展してしまう。

まぁアレですよ。人の怒りの感情って当の本人からすると大事に感じてしまうけど、第三者としてみると、滑稽すら感じてしまって却って冷静になったりする。

「まぁ、まぁ、ひとまず落ち着いて」と思ってしまうような展開がかなりツボを突いてくれたなぁ。

物語の途中から流れが変わり、序盤主役級の扱いだったシャンの元恋人が途中からどうでもいい扱いになる所は少し勿体無い気がするが、冒頭で元恋人をあれほど追い掛け回していたシャンは劉への復讐しか頭になくなる所も、あれほどパソコンに固執していたチャンがいつしかそのことをどうでもいいとさえ思ってしまう狂気も人間の感情がいかに移ろいやすく、そして面白いものかって事を上手く表現されていた。

そして、それこそが現代人の闇でもあったりするということも感じた。

メイキングで監督は後にも先にもこの手の作品はこれだけと語っていますた。確かに監督らしくない作品ではある。

滅茶苦茶な展開に荒々しいカメラワーク、説明不足な部分も感じる。

だけど役者の演技、緊張感、表現がマイナスをプラスに変える説得力を感じた。

個人的には、この作品にこそ監督の底力を感じたし、数あるイーモウ作品の中で一番ツボにはまりますた。

ブラック・ユーモア溢れるこの喜劇は人は滑稽で愚かであることを皮肉たっぷりに教えてくれた。そして、だからこそ人は愛すべき存在なのかもねとも感じますた。

1997年/中国

監督:張芸謀チャン・イーモウ

出演:姜文チアン・ウェン)/李保田(リー・パオティェン)/安紅(チュイ・イン)/劉信義(リウ・シンイー)/葛優(グォ・ヨウ)