HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

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エレクション/黒社會

STORY

香港最大の裏組織で、二年に一度行われる会長選挙。候補者をめぐって内部では意見が割れていた。組織に忠実なまとめ役としてのリーダーが適任なのか、力づくで牽引するパワーリーダーが必要なのか――。対立する候補は、“兄弟”思いで年上を敬うロク(サイモン・ヤム)と、金儲けに長け、荒っぽい手段を使うディー(レオン・カーファイ)。選挙戦の裏側では、さまざまな欲望と思惑が錯綜し、熾烈な戦いを迎えようとしていた……。

REVIEW

黒社会という姿そのものを描いている。善とか悪とかそんなもんがハッキリしている内容ではない。そして、この映画の描写のほうがきっと本当のヤクザの世界だろうなと思えてしまう。また、暴力描写も派手ではないぶん、現実味を帯びていっそう痛みを感じる。

全体的に淡々と物語は進んでいく。展開にそんな大きな起伏はない。

なのに、雰囲気が、世界観が、緊張に包まれる。

そして頂点に君臨する男が決まり、一時の緩和、そして呆然となるラスト。

見終わって冷静になると、あのラストにすごくゾクっとしますた。

ジョニー・トー監督と言う人は役者の使い方を引き出してくれる人だなぁ。キャラクターひとり一人が邪魔にならずにちゃんと印象が残る。上手いなぁ。

あと、役者達がプロだなぁと感じる。きちんと自分の役割を把握している印象だった。

登場人物が多すぎな気もしますが、そんなキャラクターが味方になったり敵になったりで一度鑑賞しただけでは把握できない展開。この混乱こそが物語を面白くさせてくれる。

物語の軸になる二人の男、ディー(カーファイ)とロク(サイモン・ヤム)。

ディーは直情型で力で事をねじ伏せていくタイプ。ロクは冷静沈着で“兄弟”思いで年上を敬う。一見この二人は正反対のタイプに見える、が、実は同じタイプの人間だ。感情を表に出すか出さないかだけの違い。二人とも野心家で残酷な面を持っている事に変わりはない。却って感情を表に出さないロクのほうが質が悪い。

ディーに黒社会で生きる怖さを、ロクに人間の怖い本質を見たような気がする。

ディーとロクの下の世代であるジミー(ルイス・クー)の存在がここでは他のキャラクターに比べ頭脳派だが地味な雰囲気。

例えば、ニック・チョン演じるフェイは命令されればレンゲを食べるような度肝を抜くようなキャラだったし、ダイタウ(ラム・シュー)とトンクン(ラム・カートン)が“竜頭棍”を運ぶ時のやりとりとか印象的だったのに対し、ジミーは出番が多い割に演出が控えめで、他のキャラクターと温度差を感じてしまう。静かすぎる。

しかし本作の控えめな演出が功をなすように、続編の 「黒社会 以和為貴」でのジミーの行動、存在感に驚かされる。

日本版DVDの特典でジョニー・トー監督はリアルな黒社会を描いたと言っている。

わしはそれと同時にこの作品で香港の今を描いているんじゃないかと感じる。97年返還以降の香港の姿。伝統を重んじた昔とそれが変わりゆく今、大陸との関係、それがこの映画を通して揶揄されている気がした。

わし自身はジョニー・トー監督が描く世界が好きだし、免疫もあるので十分見応えあったけど、物語として面白いか?と聞かれたら答えが出ない。リアリティを求めた分ドラマティックな展開は望めないから。そこは好みの差だと感じる。

ドラマティックで無い分、現実味をおびてズシリと重い。だけど骨太で見応えがある映画だと思いますた。

本作は過去を描いている、いわば序章みたいなもの。

物語は続編の「黒社会 以和為貴」を見ないと、面白さが半減します。ていうか物語が成立しない。

この「黒社會」だけだと呆然となるラストだし、物語は何も始まって無い。

「黒社會」より続編「黒社會 以和為貴」は、まぁちょっとというか、かなりエグいシーンもありますが、迫力ある展開なので大画面で鑑賞できれば嬉しいです。是非続編の公開を望みます。

今回、日本版DVDを購入しますた。特典映像が充実していて一見の価値ありです。

2005/香港

監督:杜琪峯(ジョニー・トー

出演:任達華(サイモン・ヤム)/梁家輝(レオン・カーファイ)/古天樂(ルイス・クー)/張家輝(ニック・チョン)/林雪(ラム・シュー)/林家棟(ラム・カートン)/邵美[王其] /王天林(ウォン・ティンラム)/姜大衛(デヴィッド・チャン)