HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

映画ときどき猫。音楽、パソコン、趣味

恋人たちの食卓/飲食男女

飲食男女

STORY

台湾の大都会、台北。チュ氏は適齢期の3姉妹の父親で、彼女たちと一緒に暮らしている。妻は娘たちが幼い頃に亡くなっており、家事全般は父であるチュ氏が行っていた。日曜日の晩餐は、5つ星ホテルのシェフで中国料理の鉄人だった父の手料理を前に円卓に座るのがこの一家の習わしだ。敬虔なクリスチャンである教師の長女、才色兼備で航空会社勤務のキャリア・ウーマンの次女、女子大生で無邪気な三女--映画は、彼女たちの初恋に不倫、セックスに妊娠、結婚を通し、父と娘、家族などを描いてゆく。

REVIEW

ずーっと観たかったのに、なかなか手をつけなかった李安(アン・リー)監督の『恋人たちの食卓』を見ますた。

父親と3人の年頃の娘たちの織りなす人間ドラマで、一見、退屈しそうなありがちな家族の葛藤や日常を描いているんだけど、これが李安(アン・リー)監督の手にかかると面白い。

3姉妹それぞれの恋愛と父親との確執、家族の姿を描いた内容。そして『食』と『性』ももう一つのテーマ。この部分を描いたことで更に面白味が増す。

冒頭から素晴らしい包丁さばきと旨そうな料理をつくる行程ですぐにこの映画の世界に引き込まれますた。

あの、調理器具の数々と料理の行程が個人的にもうそれだけで興味をそそられる

いやー料理も、もうどれもこれも旨そうなんだもん。見ているだけでヨダレもんですた。

それを作っているのは3姉妹の父、老朱(郎雄/ラン・シャン)。16年前に妻に先立たれ独り身で元台湾一の料理人でもある。味覚が落ちてきた事を自覚し、今ではセミリタイアみたいな感じで時々レストランの厨房に立つ。日曜日の夕食は家族で食卓を囲む為にせっせと料理を拵えている。

だけど年頃の娘たちは、日曜日に家族で夕食を囲む事に苦痛を感じ始めているんですね。

家族で食卓を囲むということが幸せじゃなくなっている。

そんな朱家の近所に長女、家珍(楊貴媚/ヤン・クイメイ)の友人である錦栄(張艾嘉/シルビア・チャン)が離婚しアメリカから娘とちょっとクセのある錦栄の母、梁母を連れて引っ越してくる。この錦栄親子と朱家の交わりも所々入れつつ、3姉妹の恋愛、父親の老いなども描いて物語は展開。

次女、家倩(呉倩蓮/ン・シンリン)はある理由で父と折り合いが悪い。キャリアウーマンで成功している彼女は独立するためマンションを購入しさっさと家を出ようとしている。

高校教師でクリスチャンである長女、家珍(王渝文/ワン・ユーウェン)は母親代わりとなって、いずれは父の面倒を見るのは自分だと言い聞かせながら毎日を過ごす。

唯一、天真爛漫なのは三女、家寧で彼女の存在が家族のムードメーカー的な役割をしている。

そんな三女、家寧の妊娠を機に家族に少しずつ変化しはじめる。

家族も時間が経てば昔のように過ごす事は難しい。そんな姿が映し出され現実感が出ていた。

この変化が家族の膿をだしていくんですね。

長女、三女の恋愛がストレートな印象なだけに、次女の恋愛が複雑なのがまたよかった。腐れ縁の男との関係、職場で知り合った男との微妙な関係とか次女の性格がこの2人の男によって更に解りやすく描かれている。

ただ、その2人の男がちょっと見分けがつきにくいのが難点。あたしゃ途中まで同一人物と思ってしまいますた。

にしても、作り過ぎた料理を娘たちがタッパーに詰めて冷蔵庫に入れる場面があるんですが、もう「わしにくれ!!」と何度も思った。それくらい料理が旨そうなのよ。

料理のシーンもそうだけど、マッサージの場面の気持ち良さそうな所とか映像と音にこだわりを感じる。

あの映像と音はこの映画には必要不可欠なくらい大事ですた。

あと、この映画はとにかく脚本がいい。一見地味な展開に見えるけど、丁寧に作られているし物語に起伏がある。そして現実感もある。朱家の家族それぞれが主人公として成り立っているからか感情移入できる。だから退屈しない。

結局、三女と長女の結婚で一番家を出ようとした次女が父と過ごす決意をする。この流れが皮肉にも面白い。

しかし、ここからが大ドンデン返しとなるわけです。ここでちょこちょこ関わってきた錦栄親子がそう来るか!!と。ちゃんと伏線があって、あの父親の行動には『オイッ!!』って思わずツッコミますた。いい意味で裏切られますた。もう、父最高!!アッパレである。

長女と三女の瞬発力は父親譲りだと納得。

この物語は家族それぞれの旅立ちがうまく描かれた映画だと思う。

4人で食卓を囲むことはないけれど家族の幸せはそれだけじゃないと教えてくれる。

父親の味覚が最後の最後に元に戻る。あの表現がよかった。それこそがホントのオチだと思う。

見終わったあと、ちょっと爽快感を感じる映画だと思います、ハイ。

1994年 台湾

監督:李安(アン・リー

出演:郎雄(ラン・シャン)/呉倩蓮(ン・シンリン)/楊貴媚(ヤン・クイメイ)/王渝文(ワン・ユーウェン)/歸亞蕾(グァ・アーレイ)/張艾嘉(シルビア・チャン