HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

映画ときどき猫。音楽、パソコン、趣味

父子

STORY

料理人のシンは、ギャンブルにはまり借金をして家庭をかえりみなかったことで、彼に嫌気をさした妻のリンは、愛する息子BOYを置いて家を出ていく。残された二人は、金もなく、借金取りに追われていたので、遠く離れた安ホテルに身を置く。だが、生活は立ちいかなくなり、シンは息子に泥棒をさせようとするが・・・・

REVIEW

パトリック・タムが17年ぶりにメガホンを撮った作品。

もう、アーロン演じる父親のダメッぷり、それに反して息子の健気な姿が対称的に描かれたおかげで感情移入できるというか、もの凄いやるせなさを感じてしまう。

もうね、あたしゃ自分の父親がこんな親ならグレちゃっているよ。でも、実際こういう親っているんだよね。愛情も責任もすっ飛ばして自分の感情だけで生きる親ってゴマンといる。そういう現実をまざまざと見せつけられたなぁ。

あと、なにげに母親も酷いんだなこれが。自分だけはちゃっかり幸せになっちゃってんの。その事実を知った時の息子の表情が今でも頭から離れないわ。

それにしても子役を演じたン・キントー君がもう可愛いだけじゃない。子供らしい前に出る演技じゃなく、押さえられた感情とかそういう表現が凄く上手い。あの利発そうな顔立ちが涙を誘うんだよね。

普通、親子を描いた作品というのは、ハートウォーミングな内容だったりして見終わった後「あ?よかったなぁ」なんて心が温かくなるのが定番だったりする。

この映画はそういった事を微塵も感じさせず、やるせなさや不条理さを感じてしまう。

重く、救いようのない理不尽さ、痛みがついてまわる。だけど、骨太で親子とは何か?と考えさせてくれる見応えのある映画だと思う。

アーロンが演じた父シンは息子に盗みをさせ、その息子が「もうやめよう」と言ったら、「明日から真面目に働くよ」って言ったその後に「あの家に入って盗んでこい!」なんて言っちゃうような、本当にどうしようもない父親。というより人としてロクデナシ。その姿に怒りが湧いてしまう。だが、そんな親でも親なのだ。

子供というのは非力で一人では生きていけない。どうしようもない親が自分の親だった時、現実を目の当たりにする子供の目線というのは、決して大人が考えている以上にその現実を見据えているのではないか?と思ってしまう。そして、その場所でしか生きられないのだと。

綺麗事を排除したこの映画の世界観は普通に生きてきた人間にとっては否定したくなる。目を背けたくなる。親子愛とかそんな類の言葉がいかに脆いものかを見せつけるから。だけど、その脆さもやるせなさにも絆というものが存在する。この物語の息子は小さいながらも、その絆を信じて生きていく。悲しい絆ではあったけど、人は誰しもそういうものにすがって生きているんじゃないかなぁと感じた。

息子は成長しこれからを生きていく。その先にはもっと過酷で困難な事が待ち受けているかもしれない。それでも、それも人生なんだと考えてしまうような内容だった。

そして、子供というのは脆く、傷つきやすい。だけど強い存在なんだと感じる。自分が親になった時、もう一度この作品に触れてみたいと思いますた。

監督:譚家明(パトリック・タム)

出演:郭富城(アーロン・クォック)、呉景滔(ン・キントー)、楊采[女尼](チャーリー・ヤン)、林煕蕾(ケリー・リン)、許茹芸(ヴァレン・シュウ)、徐天佑(チョイ・ティンヤウ)、秦海[王路](チン・ハイルー)