HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

映画ときどき猫。音楽、パソコン、趣味

ダブル・タップ/鎗王

STORY

かつて香港一の射撃の選手だったリック(レスリー・チャン)。一度は競技の世界から退いていたが、ふとしたきっかけから再び競技会に出場することに。大会当日、順調に勝ち進んだリックは決勝で、香港警察No.1の腕を持つ特捜刑事ミウ(アレックス・フォン)と対戦する。が、そこに株の取引に失敗し自棄を起こしたミウの同僚刑事が現れ銃を乱射し始める。ミウが同僚を撃つことに躊躇している時、リックの銃弾がその男の頭を打ち抜いた……。3年後、ホテルの一室で刑事たちの射殺事件が発生する。弾痕から、犯人が“ダブル・タップ”と呼ばれる神業に近い技術を持つことが判明、リックの名が容疑者として浮上する。(all cinemaより)

REVIEW

かなり見応えがありますた。

それと、銃の見せ方とか扱い方が現実的な印象だなぁと思っていたら、メイキングを見る限り、かなりの練習をしている感じですた。

ちなみに“ダブル・タップ”とは連射した2発の銃弾を同じ所に命中させる事を言うのだそう。

細かい所も丁寧に作れられた印象がした作品だった。

レスリー演じる主人公リックが性格破綻者になるまでもきちんと描かれているし、その後の衝撃的な展開もシンプルだけど目が離せない。

物語は重く苦しい内容だった。救われない展開に言葉が詰まる。

フィクションの世界を描いているのに、鬼気迫る雰囲気に怖さが伝わる。その怖さは人間の心の闇。

人は、何かのきっかけで人の道を踏み外して獣になってしまうんだなぁと感じる。

主人公リックはサイコキラーになってしまう。そのきっかけは、銃を乱射する男を正当防衛とはいえ殺してしまった事に端を発する。そのリック(レスリー)を追う側に刑事ミウ(アレックス・フォン)がいる。この二人はかつて射撃の競技会で競った相手、今では追う側と追われる側として描いている。一見、対称的に見えるが、実はこの二人はコインの裏と表の様な気がした。

リックは性格破綻者として壊れた男だが、ミウもまた精神が追いつめられていくうちにリックの恋人コリーンに手錠をかけ異常な行動に出ようとする。それは未遂のまま終わるが、その精神状態はリックと重なる怖さを秘めている様に見える。

もし3年前のあの時、先にミウが男を撃っていたら、ミウがリックになっていたんじゃないか?そういう気がしてならない。

人は誰でも何かのきっかけでリックのようになってしまうんじゃないかと、そんな恐怖を感じてしまう。

この映画で考え巡らせるほどズシリときたのは、物語自体も演出もよかったけど、きっと出演者の演技の賜だと思う。

レスリーが悪役を演じるなんて想像がつかなかったけど、まさかこんな性格破綻者を演じきるとは思いもよらなかった。正直、鬼気迫る演技に魅入ってしまいますた。

レスリー演じる主人公リックは人を殺すことに快楽を覚えてしまった異常者だ。異常な行動に憎しみも感じる。

例えば、方平をロッカーで殺すシーン。殺した後、まるで子供のように方平に礼を言う所にゾクッとする。射撃場で次々に無表情で警官を殺していくシーンも愕然となった。

かと思えば、リック自身が異常者になってしまった自分にもがき苦しむ姿と葛藤も丁寧に描いている。

破綻している自分自身に苦しむリックを観ていると、こっちまで痛みを感じずにはいられない。それと同時に悲しさと虚しさが波のようにやってくる。

リックのような人間を理解しようとは思えない。ただ、憎いだけじゃなく、こんな悲しい男も他にいないじゃなかと、そんな感情も抱いてしまう。

そんな感情を抱いてしまうほど、レスリーの演技が、存在感が、見る側を圧倒させる。この映画をただの猟奇殺人を描いただけの映画では終わらせない深さを感じた。

そしてレスリーと肩をならべてアレックス・フォンとルビー・ウォンの存在も素晴らしかった。

アレックス・フォンがだんだん精神的にも追いつめられていく姿に緊張感を感じたし、ルビー・ウォンが演じるコリーンのリックに対する想い。このままでは恋人がおかしくなってしまうと解っているのに殺せない葛藤とか、見ているこっちも胸が苦しくなった。

メイキングのレスリーのインタビューを観るとちょっと切ない気持ちになってしまう。物語自体も救われない内容。気持ちが沈んでいるときに観るとキツいかも知れない。

でもシンプルな展開ながらもガツンと撃たれるような衝撃的な展開に目が離せない映画ですた。一見の価値あり。

2000年/香港

監督:羅志良(ロー・チーリョン)

出演:張國榮レスリー・チャン)/方中信(アレックス・フォン)/黄卓玲(ルビー・ウォン)/谷徳昭(ビンセント・コク)/張民光(ジョー・チャン)/モニカ・チャン