HK CINEMA LABO 映画と猫。ときどき雑記帳

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ドリアン・ドリアン/榴[木連]飄飄

STORY

イェンは中国東北部の牡丹江から、南部の経済特別区・深址へ出て、そこで3週間の就業ビザを手に入れ香港に渡った。歓楽街・〔石本〕蘭街(ポートランド・ストリート)で、イェンは娼婦として体を張って稼ぎまくる。

ある日、イェンは大陸からの不法滞在者である幼い少女ファンと知り合った。客たちに出身地を訊かれるたびにいいかげんに答えていたイェンだったが・・・

REVIEW

「香港返還」3部作でおなじみの陳果(フルーツ・チャン)監督による、娼婦三部作の一つ。娼婦三部作のうち、この「ドリアン・ドリアン」、もう一つがジョウ・シュン主演の「ハリウッド・ホンコン」、そして、あと一作はまだ作られてません。今回は「ドリアン・ドリアン」の紹介。

この映画のタイトルでもあるドリアン、物語の途中にイェンのガードをしている男の子がドリアンで殴られるまで出てきません。なので、「ドリアン・ドリアン」ってなんのこっちゃ?と思いますた。

内容自体、特にストーリーに波があるわけでもなく、これといって大きな特徴があるわけではない。物語の終わりは何が言いたいのか?そう感じると思います。でも不思議とこの映画の淡々とした世界が心地よかったです。

ドリアンを味わった事がある人なら、あの強烈で濃厚な臭い、でも一度味わえばその甘く濃厚な味わいは忘れられないもんがあると思う。そして、これほど好き嫌いがハッキリ分かれる果物もないと思う。そんな「ドリアン」を主人公イェンが過ごす香港での日々に例えている気がして、そこが好きですた。

前半の香港の街の激しい喧騒と、後半の美しく静かで一面真っ白な牡丹江の寂しい町のギャップが主人公イェンの姿を鏡のように映し出している所が印象的。

イェンという人物は香港では就業ビザで体を売る女性。そのために休む間もなく稼ぎまくる。ある程度金が溜まり、故郷の牡丹江では成功者として扱われる自分に戸惑う。そんな彼女の元に同じく不法滞在者の家族で仲良くなった少女ファンからドリアンが送られてくる。ドリアンを食べたことのない家族はそれを食べるために四苦八苦する。香港にいるときは日常で見るドリアンをイェン自身も食べたことがなかった。そのドリアンを食べそしてファンの手紙を読んで香港での日々を思い出す。それは娼婦での日々、だけど強烈な日々で忘れられない思い出となる。そして、そんな思い出を秘めたままイェンは牡丹江で京劇をやっていこうと決意する。描いているのはただそれだけの事。

不思議とこの映画の世界観がいいなと思えたのは、娼婦はあくまで題材の一つであって、それをあえて捕らえているわけじゃなく、押しつけがましくない雰囲気だったから。イェンの姿を悲壮感漂うことなく淡々と描いていて、かえってそこが気に入りますた。

そして、イェンと仲良くなるファンという少女は「リトル・チュン」でも登場する少女。そのファンの家族の話を織り込んでいる所もよかった。

また、香港で何喰わぬ顔で身体を売っていたイェンが、身体の痒みによってキツさが表れたりする所、不法滞在の家族や周囲の実情、そして香港と大陸の違いをまざまざと見せつける。そういうシビアな面が物語に臨場感をもたらしてくれて、そこも見せ場に感じますた。

イェンにとって、「ドリアン」は故郷ではきっとできない経験。それは必ずしも輝かしいものでも美しい日々でもない。けどそれは、刺激的でスリルがある強烈な人生の一コマ。イェンはドリアンを味わうたびポートランド・ストリートでの日々を思い出すだろう。

この映画を見終わったあと、観る側がそれぞれが「ドリアン」に何を感じるか?その答えは人それぞれだし、答えなんて無いのかもしれない。

そうやって人は何かをふと思い出し毎日を進んでいくんだろうなぁ・・・。なんて思ってしまう映画ですた。

2000年/香港

監督:陳果(フルーツ・チャン)

出演:秦海〔王路〕(チン・ハイルー)/麥惠芬(マク・ワイファン)/黄明(ウォン・ミン)/楊美金(ヤン・メイカム)/麥雪〔雨/文〕(マク・シュエウェン)/陳連貴(チェン・リェングイ)/姜麗艶(ジャン・リーイェン)/翁〔火韋〕曜(ユン・ワイイー)